日本では無名ですが、香港ではもっとも大きな商社の一つである利豊。この会社を経営しているのがFung家。現在三代目で、Victor FungとWilliam Fungの兄弟が共同経営をしています。
VictorはHarvardにてPh.Dを、Williamは同じくHarvardにてMBA取得している、秀才達。この2人とWhartonの教授Yoram Windによる共同執筆で、『Competing in a Flat World』を書いています。
この本は当然『World is The Flat(邦題:フラット化する世界)』のコンセプトを元に書かれています。
利豊の強みはサプライチェーンマネジメントなのですが、利豊での実用例をひもときながら、その強みをフラット化した世界において通用するフレームワーク・コンセプトにまとめ上げています。
気になったコンセプトが一つ。そのコンセプトは「オーケストレーション」と呼ばれる機能です。SCMを管理する企業はオーケストラの指揮者のような、複数のメンバー(サプライヤーと受注元)に対する管理機能を持つ必要があるとしています。
利豊の例で言うと、利豊はアジアを中心に数百のサプライヤーを持っています。受注元である衣服メーカーなどから注文を受けた後、サプライヤー群の中から、品質・価格・納期等、複数の要件に当てはまるサプライヤーを選び出し、発注をします。
受注側から問題が起こったり(発注が取り消される等)、サプライヤーから問題が起こったりしても(納期に間に合わない等)、その調整を速やかに行って複数の利害関係者が皆Win-Winになるような解決策を見つけていく必要があります。その調整機能を「オーケストレーション」と呼んでいるのです。コンセプトとして明確に示された事自体はまだ新しいことなのかもしれませんが、既に日本の大手商社などはまさにこの機能を有しており、それを強みとしているので古い概念と言っても良いかもしれません。
しかしこの概念を実装し、利益に結びつけている企業はまだまだ少ない、というのが、この本が書かれた背景にあるのだと思います。
この概念、実は昨年読んだ『進化する香港』に、香港の強みの一つとして挙げられていました。『進化する香港』を読んだ時はそれほどぴんと来なかった(具体例があまり載ってなかったので)のですが、こちらの本を読んでなるほど、と思いました。
日本語版が出ていないのがもったいない!と思うくらいの好著です。『オーケストレーション』機能を持つ商社の人々向けだけではなく、SCMのメンバー企業、もしくはその候補たり得る日本の、差別化できる技術を持った中小企業、町工場の人にも読んで欲しい本です。
ということで実は利豊にはツテがあったので、日本語版の翻訳をさせてくれるようお願いしてみたのですが、興味はあるが翻訳は未定で、やるとしても利豊の日本オフィスと相談した上で行う、という回答が来ました。自分で出来ないのは少し残念ですが、是非日本オフィスの方々には翻訳OKの決定をして、日本にもこの本を紹介して欲しいと思います。
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