『沈みゆく帝国 スティーブ・ジョブズ亡きあと、アップルは偉大な企業でいられるのか』読了

Wall Street Journal記者をしていたケイン岩谷ゆかりさんによる、スティーブ・ジョブス亡き後のアップルについて書かれた本です。

丹念な取材を元に積み上げた本で、これまであまりまとまって表に出てこなかった話がたくさん書かれています。例えばサムソンとの訴訟やフォックスコンとの関係等。フォックスコンの中国国内の工場の話は、当地に住んでいるものとしては常識ではありますが、そうで無い圧倒的多数の読者にとっては目新しい情報なんだと思います。もちろん書き方はきわめて公平だと思いました。

結論としては「偉大な企業から良い企業」になるだろうという割合悲観的な予測を書かれており(とはいえ「良い企業」というだけでも十分にすごいのですが)、アップル信者には受け入れがたいのだろうと思います。そのためAmazon.comの書評では評価が真っ二つに割れているようです。

僕は、スティーブ・ジョブスが仮に存命かつ経営に采配をふるっていたとしても、大きな違いは無いのではないだろうかと思います。遅かれ早かれ本書で触れられている様々な問題には直面しているだろうし、スティーブ・ジョブスであってもそれらを上手く解決していくのは難しかっただろうと思います。

今のアップルの状況というのは、訳者あとがき等でも触れられていますがソニーが辿った道に非常に似ています。創業者が亡くなった後の偉大な企業が、その状況を維持できず衰退していく。クリステッセン教授とのインタビューも本書で含まれていますが、偉大な企業を次世代経営者が維持していくというのがどれほど難しいのか、改めて考えさせられます。

ケイン岩谷ゆかりさんは日本人の帰国子女なのですが本書は英語で書かれ、『スティーブ・ジョブズ Iスティーブ・ジョブズ II』の訳者、井口耕二さんによって日本語に訳されています。驚いたのは著者が僕と同い年であること。同い年でこれだけの本を書かれたのはすごいなと、ただただ尊敬です。