『アマゾン・ドット・コムの光と影―潜入ルポ』読了

Amazon.co.jp: 本: アマゾン・ドット・コムの光と影―潜入ルポ

潜入ルポ、という手法は、最近珍しい気がしますが、臨場感溢れる記述で非常に面白かったです。この本の中で出てきますが、鎌田慧さんの『自動車絶望工場』を思い出しました。この本は未だに売れ続けているそうで。すごいなぁ。

さて、本書の内容は、秘密主義のアマゾンジャパンについて書かれた本。著者は千葉にある日通が運営するアマゾンの発送センターにてバイトとして雇用され、そこで知った業務の流れを一つの軸に、アマゾンの強さと日本社会が今後抱えて行くであろう雇用問題について描いた本です。

アマゾン、というとワンクリックサービスが有名で、Webからクリックするだけで簡単に本やCD、最近は家電まで買えて、自宅まで送料無料(1,500円以上の場合)してくれる便利なサービスを提供し、日本でも既に売り上げトップの紀伊国屋や丸善に並んだとも言われています。

ITを使ったサービス事業としては非常に典型的な形で、最近では利益も出して債務も減ってきているとか。それはそれで利用者側からすれば素晴らしいのですが、Webの裏側では、非常に簡素化された作業をアルバイトに依頼している、労働集約型産業の側面もあるのでした。在庫の山からオーダーの品物をピッキングし、封入して発送する。これは品物の形がバラバラな場合、どうしても自動化が難しいため、人手に頼らざるを得ず、そこでアルバイトの出番になるわけです。

ここでのアルバイトはまさにチャップリンの映画の如く、歯車。いつでも代替可能なように全ての作業が平準化・標準化され、数値で管理できるようになっています。仕事をする上では当たり前のことなんだけど、それをきっちりこなすことによって、発送作業の低コスト化〜利益拡大を図れるのでしょう。

反面、アルバイト達は仕事に対するモチベーションが全く上がらず、単に金稼ぎに来ているだけ、ということになります。今後の日本はこのように一部の高度な作業をする人たち(ニューエリート?)と、単純作業を黙々とやる人たちに二分化されてしまうのでは、という危機感を、著者は伝えています。実際USでも問題になっているインドや中国へのアウトソーシングなどはまさにそれ。

利用者・お客としては安くて良い商品・サービスが手にはいるので良いのだけど、働く側に回ったとき、仕事とどう関わるのか、どういうキャリアプランを立てるのかというところで大きな問題を抱えることになります。この矛盾をどう解いていくか、というのが、仕事をする人々共通の課題でしょうね。