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MS、中国の外注先工場に労働実態の査察チームを派遣:ニュース - CNET Japan
アップルの次はマイクロソフト! 現代版女工哀史の悲惨:ギズモード・ジャパン
上記3つはマイクロソフトがマウスの製造委託している、中国にあるKYE Factoryという工場の労働環境の悪さを記事にしたものです。
問題点としてあげられている上げられているのは主に以下4点。
・未成年者の違法就労
・長時間/休日勤務
・厳しい規則
・劣悪な寮・食事
確かに米国その他の先進諸国の労働基準のみならず、現在の中国の労働関連法から見ても違法な点があるようです。とはいえ、これはマイクロソフトに限らず、中国に製造委託している所ならどこでも頭を悩ませている問題です。
上記の問題点を「改善」することが本当に良いことなのか、よく考える必要があります。それは消費者の視点、雇用者の視点、そしてワーカー(労働者)の視点。
記事は労働者を先進国の視座から見てます。消費者の点で考えると、上記4ポイントが改善されるとすると、間違いなく生産コストが上がる(もちろん人件費その他の上昇が100%消費者に添加されるわけではないけど)ので、消費者にとっては出費が増える可能性が大きいです。「子供達が長時間働かされてかわいそう」と言う前に、誰が価格の安い物をほしがっているのか、考える必要があるでしょう。
ちなみに上記4ポイントには含まれてませんが、先進国並みの労働環境を実現するなら単純に給与を上げるだけではなく、操業中の事故や怪我に対する補償も考慮する必要があります。現状は「徐々によくなっている」のですがまだまだ。こちらでは人の命は軽い、というのが現状です。
次に雇用者の視点から考えれば、以下2点が課題です。まず問題改善によるコストアップすると価格競争力がそがれるため、コストを出来るだけ押さえようとする意志が働いています。
また求職者の身元確認には手間暇がかかり、これまたコストに跳ね返ります。だからよっぽどあからさまでなければ、知らなかったことにして雇用してしまうのでしょう。
工場側がリスクを取ってまでわざわざ未成年者を雇用する必要はないので、未成年者が働いてるのは偽造ID、知り合いのIDを借りて就職する場合が多いというのが実態。中国ではワーカーの離職率は高いので、採用時のコストも抑える必要があります。
最後に現地の労働者の視点。IDを借りたり偽造してまで工場で働こうとしているのはなぜか?彼等は親に売られて来ているわけではありません。
四川省、湖南省等の内陸部はまだまだ貧困地域が多く、その地での職が少ないのがまだ現状。さらに貧困地域ほど一人っ子政策が守られず複数の子供がいて、満足な教育はおろか日々の糧にも困っている状況が現実としてあります。
そのため子供達は一定の年齢になったら華南地域へ出稼ぎに来るのです。彼等の1ヶ月の給料は田舎の数ヶ月から1年分に相当します。上記劣悪な環境を改善した結果、家族が路頭に迷う、ということも十分にありえる訳です。
残業にしてももちろん工場側が要請しているわけですが、ワーカー達も残業が少ない工場は所得が減るのでいやがり他へ移りたがる傾向があります。一生そこで働くのではなく、数年から10年ほど働いて田舎に家を建てて結婚して安定した暮らし、というのが、中国のワーカー達の現実なのです。だから働けるだけ働いておこう、という意識が働きます。
最近深圳日本商工会で知り合った総経理の方が仰ってました。「月60時間未満に残業減らすとワーカーは辞めていくから困る」と。それが現実なんです。
国連の定義による最貧困層というのは1日1米ドル以下で生活している人を指すそうです。これは人民元で約7元。1ヶ月の生活費が単純計算で210元ということになります。
ワーカーのお給料、東莞や深圳では800元から1,000元。これだけで家族4人の生活をまかなえることになりますが、さらに残業及び休日出勤することで、2,000元以上稼いでいるワーカーが多いそうです。このうち500元を手元に残して1,500元を仕送りしたら、どうでしょう?
こういう実態を見ないで先進国の視点でのみ批判するのはどうなの?と思います。こういうことは確かに現場に行ってみないと分からないものではあるのですが。
ここらへんのことは『China Price (邦題:中国貧困絶望工場)』や『Factory Girls (邦題:現代中国女工哀史)』に載ってます。
『Factory Girls』は今読み途中ですが面白いです。感想はまた別途。以下に上記2冊の書評がありました。
アレクサンドラ・ハーニー『中国貧困絶望工場』、レスリー・T・チャン『ファクトリー・ガールズ』:ものろぎや・そりてえる
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出目金魚
論点が違いますが、趣旨の「先進国の視点で」というのは激しく同意。
日本でも報道されていますが、労働者不足の影響で今後数年は工場の労働環境改善や待遇改善が工場間で争うように起きると思っています。以下項目ごとに改善の方向性について書きます。
・未成年者の違法就労
現地法規でも違法なのはNG。改善されるでしょう。
・長時間/休日勤務
法規にのっとた超過手当が払われるのであれば、問題なし。
・厳しい規則
私見ですが、これは一部残った方がいいと思います。日系に多く見られるのですが、華南地域で社員がいきいきしている工場は「学校」のようなしくみ・文化を持っています。厳しい規則をもった学校で社員が育つという意味で、厳しい規則は重要かもしれません。
・劣悪な寮・食事
これも現地の基準で改善がされるでしょう。欧州からの交換留学生から見たら一般的な中国の大学(MBA生が使用するところですら)、「劣悪」と思っています。でも、食中毒とかないので問題ないと思います。
ちなみに、中山大学嶺南学院では、米国のNGOと提携して、EHS(Environment, Health and Safety)中心という部門があり、米国企業の現地工場や下請け向けに研修をやっています。こういうギャップでもビジネスチャンスにしちゃうところが、したたかだなと母校ながら思います。
http://www.ehsacademy.org/
こーじ
出目金魚さん
さすが華南地域の事をよくわかってらっしゃる!でもこういうのって本当に日本からは「見えてない」んですよね…。
未成年の就労に関しては、中国に限らず世界中で起こってる問題で、それを禁止するのは表面的な解決策でしか無く、根本には山ほどいる貧困家庭をなんとかしなければいけないことだと思っています。
そこを解決しない限り未成年就労の抜け道はなくならないでしょう。
厳しい罰則については確かにある程度の規律は必要かもしれません、彼の国では(^^;。
中山大学嶺南学院の取り組み、面白いですね。こういうコラボレーションは現地の大学ならではで、是非うちも見習って欲しいです。
ks
電車の吊り広告で見ただけなので詳細はわかりませんが、
「月給2万円、午前3時までアイロン掛け… ユニクロ中国『秘密工場』に潜入した! 初めて明かされる『勝ち組』のタブー」
という記事がありました。
http://www.zassi.net/latest_ad_list.php
→「週刊文春 2010/05/06・13日ゴールデンウィーク特大号」
現地の実態に詳しいわけではないですし、記事自体は読んでないのですが、どうもこの見出しには違和感を感じます。
ちょうど電車内で見たところだったので。
こーじ
ksさん
情報ありがとうございます。
まず、ユニクロだけが給料2万円ではないです。華南地域の工場のワーカーならどこでもそう。
また給料2万円って約1,500元ですが、これくらい普通。日中の物価や経済状況を一切無視して、日本の価値観で一方的に書いているこのような記事は最悪ですね。印象操作している感じです。
でも中国の生の声を知るのは日本にいてはかなり難しいので、こういうマスコミのフィルターを通して知るしかなく、間違った情報だけが真実のように流れていくのでしょうね…。