元TBSワシントン支局長の山口敬之氏によってレイプの被害に遭った著者による本書。これは山口氏への恨み節等私怨で書かれたのではなく、このような重大な被害にあった被害者を守るべき警察組織やマスメディアが不可解な対応の末、彼女のケースが不起訴処分となったことを『ブラックボックス』とし、このブラックボックスに対する挑戦として書かれています。
もちろんそのために彼女自身の身をえぐるような思いでレイプされた経緯、その後の警察や弁護士、友人知人とのやりとりなどを纏めています。ジャーナリストになる夢を追い求めて留学していた著者だからこそ、このような本が書けたのでしょう。でなければ、記者会見を開いたり本を出版することによって結果的に起こるセカンドレイプに耐えられないと思います。
本件が起訴されていれば、山口氏が一躍有名になった『総理』の出版はなかったかも知れません。そもそもこの方は本書によればワシントン支局長から国内営業へ異動になっていたそうで、それがきっかけか退社をされています。このような異動は通常左遷でそれに耐えられなかったのでは、と思わされます。その後『総理』を書き下ろしていますが、どうもこの本、そして続く『暗闘』は、安倍政権が政権安定化のために山口氏を上手く利用しているように思えてきました。その役割を担ってもらうため、本件を不起訴処分にしたのか...。
不可解なのは山口氏自身が著者と避妊具無しで性交渉を持ったことに対して一切否定していないこと、そして逮捕状が出て逮捕寸前で取り消した元警視庁刑事部長の中村格氏も自分が判断したとはっきり認めているものの、判断の根拠について著者がインタビューに向かったとき走って逃げて答えていないことです。やましいことが無いのであれば山口氏も会見を開いてはっきり答えれば良いと思うし、中村氏も根拠について述べればいい話。それを逃げてしまうから余計に疑問が募ります。
この本だけでは伊藤さんの視点での真実しか明かされません。もう一方の当事者である山口氏による真実もメディアの前ではっきり話して欲しいです。